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世界の奇食の歴史 人はなぜそれを食べずにはいられなかったのかを読んだ感想

世界の奇食の歴史 人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか

作者 セレン・チャリントン・ホリンズ 訳 阿部将大

 

 

 

 

「あなたが普段食べているものを教えて欲しい。あなたがどんな人であるか、当ててみせよう」と言ったのはフランスの美食家で有名なジャン・アンテルム・サラヴァンだ。過激な発言ではあるが、食べているものはその人の文化的また社会的立ち位置を示す、一つの指標になっているとも考えられるのではないだろうか。

 

さて、本書は奇食の歴史が語られていくのだが、奇食とは何かを定義するのは難しい。食べて気味が悪いものというのは文化により大きく異なるためだ。そのため私は嫌悪感を示す食べ物の仮説として「有害であり危険」があるものを、人は不愉快に思うのではないかと考えた。しかし、あっさりとその仮説は覆される。私たち人間は、ほとんどの文化の中であえて食品を腐りかけにし、時には酷い悪臭を生み出してから食べてきたのである。

 

この本では缶詰、内臓、血、虫などが食べられるに至った経緯、また当時の食生活の中でそれらがどのような地位にあったかなど詳しく解説されている。他の文化に対し失礼な表現ではあるが、単にゲテモノ料理の紹介ではない。社会的、また文化的に根付いた食事がどのように変貌を遂げてきたのかという歴史である。

 

とは言え、目を背けたくなるような料理が多い中で缶詰が登場するのは非常に興味深かった。缶詰が誕生した当時、肉屋はまだ店先に動物を吊るしている店がほとんどだった。今では目を背けたくなる光景だが、これこそが新鮮な良い肉を扱っているという一種の証明だったわけである。そのため缶詰肉は「動物の死体の詰められた缶」という扱いだったのだ。当時安全性が認められていたにも関わらず、本当か確かめようのない不幸話も盛んで新聞もこの不安を煽っていたようだ。今の食用コオロギ問題と何やら重なる部分も多い。

 

日本の奇食も数回登場するが、2012年に杉並区で開かれた切断した男性器の食事会の話が登場するとは驚いた。また日本は鯨の睾丸を醤油で食べるとも書かれていた。鯨肉は食べたことがあるが、睾丸まで食べられたとは。知らなかった。

 

気食の歴史は当時の生活様式を感じることができる非常に面白いものだった。人はなぜそれを食べずにはいられなかったのか?という副題があるが、私も最後に疑問を投げかけたい。なぜ日本では脳みそを食べる文化が発展しなかったのだろうか。その他の部位は綺麗に食べつくすというのに。